AI時代のプロダクトマネージャー 03|AIを「道具」ではなく「同僚」として扱う
まず、多くの人がどうAIを使っているかを見てみよう。
新しい会話を開いて、「ユーザー成長の施策を書いて」と一言打ち込む。当たり障りのない、誰にでも使える一版が返ってくる。気に入らなければもう一言打つ。次に新しい要件ができると、また新しい会話を開いて、また一から説明し直す――うちは何のプロダクトで、ユーザーは誰で、前回何を決めたか。この過程を的確に言い表した人がいる。新しい会話を開くたびに、あなたは記憶喪失の社員を入社させ直しているのだ、と。プロジェクトの構造を、もう一度説明する。チームの優先順位を、もう一度説明する。先週決めたことを、もう一度説明する。
Relay.appのCEOであるJacob Bankが、2026年のAIプロダクトリーダー・サミットでこう言った。AIを道具として扱うのはもうやめろ、雇った同僚として扱え、と。この言葉そのものはスローガンで、実用的ではない。実用的なのは、その裏にある人の育て方の動作だ――新しく来たジュニア同僚をどう育てるか、その通りにAIを育てればいい。以下は、そのまま真似できる四つの動作だ。
一、まず引き継ぎ文書を書いてやる。毎回ゼロから説明するな
新しい同僚が入社した初日、あなたは彼が何もかも分かっていることを期待しない。あなたは一つのものを渡すはずだ。うちは何のプロダクトを作っていて、誰に使ってもらうのか、コードと文書はどこにあるのか、暗黙の了解にはどんなものがあるのか。AIエンジニアリングの世界でこの数年に現れた CLAUDE.md や AGENTS.md がやっているのは、まさにこれだ――「会話と会話のあいだに完全に記憶がない」同僚のために書く入社文書だ。会話が始まるたびに自動的に差し込まれるので、あなたが何度も繰り返さずに済む。
プロダクトマネージャーも、自分のその一枚を持つべきだ。これらを一度きり、はっきり書いておく。
プロダクト:小規模事業者向けの記帳ミニアプリ。ユーザー:タピオカ店やコンビニを営む個人オーナー。財務には詳しくなく、操作はほぼスマホ。 私たちの約束事:金額は一律「分」(セント単位)で保存し、「元」は使わない。すべての機能はまず管理画面で設定できる版を作る。文言は「売掛金」のような専門用語を使わず、「他人があなたに借りているお金」と書く。 この版で作っているもの:月末に「今月いくら儲かったか」を示すシンプルなレポートを自動生成する。
この一段を文書に入れておけば、以後どんな仕事をさせるときも、AIはこれらの前提を抱えたまま動く。違いはどれほどか。あなたがそのまま「月次レポートを作って」と言えば、AIはおそらく「売掛/買掛/粗利率」が並んだ財務表を返してくる――個人オーナーにとっては災難だ。AIにできないのではない。あなたがその境界を伝えていないから、AIは最も一般的なデフォルトに従うしかないのだ。
二、一つの塊の仕事を任せ、境界と「完了」を言い切る
人を育てるときに最も避けるべきは、半端な一言だけを投げることだ。「クーポン機能、いい感じに作っといて」。ジュニア同僚は、固まるか、あるいは期待の三倍に膨らんだ、しかもあなたが頼んでいないものだらけのものを返してくる。AIに仕事を任せるのも同じだ。一度に一つの塊を任せる。ただし三つのことを言い切る。何を作るか、何を作らないか、何をもって完了とするか。
今回は新規ユーザーの初回注文クーポンを作る。 今回は作らない:既存ユーザー向けクーポン、シェア拡散、併用――これらは後で考える。今回は一切手を出すな。 完了の基準:管理画面でクーポンの額面と有効期限を設定できる。新規ユーザーが初回注文時に正しく割引が適用される。既存ユーザーには、このクーポンが見えない。
「今回は作らない」の欄は最も漏らされやすく、そして最も価値がある。AIはあなたの沈黙から境界を推し量ってはくれない――「今回は既存ユーザー向けクーポンを作らない」と書かなければ、十中八九、ついでに既存ユーザー向けのロジックも足してくる。「あなたのために周到に考えて」いるからだ。作らないことを書き出すのは、作ることを書き出すよりも重要だ。
三、ジュニア同僚のPRを審査するように、産出物を審査する
AIがものを納めてきた。最も危険な動作は、そのまま「採用」を押すことだ。ジュニア同僚が出してきたコードをあなたは審査するだろう。AIが出してきたものは、なおさら審査すべきだ――AIはジュニア同僚よりも「話をうまくまとめる」のが得意で、やり切っていないものをやり切ったように包装できる。
審査するとき、結果だけを見るな。AIにまず手の内を明かさせる。
まだ最終版は出さないで。やったことの過程を一度説明して。私が明言しなかったことで、自分で補った前提はどれ? いちばん自信がない箇所を三つ挙げて。私が出した要件にはなくて、あなたが追加で足したものはどれ?
この一問で、普段AIがこっそり補っていたものが表に出てくる――「クーポンは全店共通だと想定しました」「有効期限は7日と仮定しました」「ついでにシェアでクーポンがもらえる機能を足しました。普通そうするので」。これらの前提のうち一つでもあなたの考えと違えば、最終版は間違いだ。AIに自分で言わせるほうが、あなたが一行ずつ産出物を見るよりずっと速いし、ジュニア同僚を育てるときに最も身につけるべき習慣でもある。まず本人がどう考えたかを聞き、それから作ったものが正しいかを見るのだ。
四、訂正のたびに、引き継ぎ文書へ書き戻す
人を育てた者なら誰でも知っている。同じ間違いを三度訂正してもまだやらかす、これがいちばん消耗する。AIには記憶がないので、あなたが書き留めなければ、毎回同じ間違いをやり直す。だから訂正するたびに、ついでにその一条を、第一歩で作ったあの文書へ書き戻す。
AIがまた金額を「元」で計算した。訂正したら、CLAUDE.md に戻って一行足す。「再強調:すべての金額は内部では分で保存・計算し、ユーザーに表示するときだけ元に換算する」。次からはもう間違えない。AIがまた「売掛金」を使った。文言の約束事に一行足す。この文書は、こうやって一週間また一週間と育っていき、使うほどにあなたを分かってくる同僚に変わる――これこそ、AIを同僚として扱うことと道具として扱うことの、最も実体のある違いだ。道具は使い捨て、同僚はあなたのフィードバックで良くなっていく。
ひとつ、逆向きの注意
同僚を育てるうえで、もう一つある。すべての仕事を任せていいわけではない。押したら取り返しのつかないこと――クーポンを本当に配ってしまう、データを消す、お金を動かす――この一押しは人間のために残しておく。AIはクーポンの施策、設定、文言をすべて用意してくれるが、「十万人のユーザーに一斉送信する」あのボタンは、自分で押す。これは新人を育てるのと同じ理屈だ。彼にメールを書かせはするが、「全員に送信」する権限を初日に渡したりはしない。
今日できることが一つある。あなたが使っているAIを開いて、あなたのプロダクトの背景、ユーザー、最も重要な三つの約束事を、二十行ほどの引き継ぎ文書にまとめて保存する。次に仕事をさせるときは、まずそれを貼り付けてから、産出物が以前とどれだけ違うかを見てみる。
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AGENTS.md/CLAUDE.mdを「AIのための入社文書」として捉える解説:https://vibecoding.app/blog/agents-md-guide- 本シリーズ第01回『PMのどの仕事がAIに奪われ、どの仕事がかえって高く売れるのか』:/ja/blog/ai-pm-what-changed/
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