2026-07-26

TIME の表紙に載ったのは 65 万ドルの搭乗型メカ。王興興が一番売っているのは 5000 ドル以下の機体だ

7 月 23 日、TIME 誌の表紙には高さ約 2.7 メートルの機械が立っていた。Unitree の GD01、世界初の量産型搭乗メカで、胴体のコックピットに人間が乗り込んで操縦する。誌面をほぼ埋め尽くすその隣に、創業者の王興興が小さく見えるかたちで立っている。表紙の見出しは「The big robot moment」。環球時報によれば、中国の起業家が TIME の表紙に登場するのは 8 年ぶりだという。

GD01 は 390 万元から。TIME の表記では 65 万ドル。

この数字は一日じゅう拡散された。そして Unitree のプロダクトラインの中で、最も重要度の低い数字でもある。本文を数ページめくると、プロダクトに関わる人間にとってもっと見る価値のある数字が並んでいる。

まず数字を並べる

TIME の記事にあるハードな数字:

王興興自身の来歴も記事にある。寧波の出身で、10 歳のときに Marc Raibert の MIT でのロボット実験映像を見て、大学 1 年のときに 30 ドル未満で最初の二足歩行ロボットを作り、2016 年、26 歳で Unitree を創業した。

一番売れている機体は、表紙に載っていない

さきほどの価格を一本の線に並べてみる。4.5 万ドル → 2000 ドル以下。1.6 万 → 1.35 万。そして 5000 ドル以下の R1。

この線こそが Unitree のプロダクトラインだ。

ハードウェアをやったことがある人なら、値下げがどれほど難しいかを知っている。財務部門が見積書を一刀両断することではない。機体をばらして部品を一つずつ削り込む作業だ——モーター、減速機、コントローラー、構造部品、どれも自分たちで作り、コストを制御できるところまで持っていって、はじめて価格の話をする資格が生まれる。Unitree がこれらの中核部品をすべて内製で握っているのは、垂直統合が格好よく聞こえるからではない。この価格曲線は、そうやってしか下りられないからだ。

6 年でロボット犬を 4.5 万ドルから 2000 ドル以下にする。22 分の 1 だ。この規模の値下げは、顧客そのものを入れ替える。4.5 万ドルのものは調達に半年かかる研究設備であり、2000 ドルのものはフィードで見かけて注文できる家電だ。同じ機械でも、価格がある線を越えた瞬間に、別のカテゴリーになる。

ジェンスン・フアンについて書いた回では、シャベルを売る者が他人のゴールドラッシュで勝った、と書いた。王興興が選んだのは別の道だ——シャベルを安くする。採掘する側が稟議を通さずに買える値段まで。

だから GD01 が表紙に載ったことと、Unitree が実際にやっていることは、別の話になる。

この道を彼は 2013 年に選んでいる

価格曲線は会社が大きくなってから生まれた戦略ではない。王興興が大学院にいた頃の技術的な選択だ。

2013 年、彼は上海大学の機械工学の大学院に入った。当時の四足ロボットの主流は油圧だった。Boston Dynamics の BigDog も Atlas も油圧駆動で、力は強く動特性も優れているが、高価で複雑、油漏れがあり保守が難しい。彼はその道を追わず、純電動を選んだ——産業用に出回っている安価なブラシレスアウターローターモーターを関節に使う方式だ。

2015 年、ハードウェアも制御アルゴリズムも一人で仕上げて XDog を完成させ、上海市ロボット設計コンテストで二等賞を取り、電動駆動の方式を公開した。Boston Dynamics が自社の電動駆動を公開したのは 2016 年だ。

ここには見落とされがちな層がある。彼が油圧を捨てた理由として公にしたのは、工学的な複雑さとコストが低く、性能もそれほど落ちない、というものだった。言い換えれば、2013 年の時点で彼は「量産できる安さに届くか」を技術選定の第一基準に置いていた。 大学院生が修了研究でふつう狙うのは、論文に書ける見栄えのする性能指標だ。彼が自分に課したのはコストという制約だった。

大学 1 年で 30 ドル未満の二足歩行ロボット。大学院で油圧を産業用モーターに置き換える。起業してから 6 年でロボット犬を 22 分の 1 に。同じ判断が、三つの異なる予算スケールで三回繰り返されている。2024 年のインタビュー記事の見出しに載った数字は「9.9 万元のヒューマノイド」だった。いまの G1 は 1.35 万ドルだ。

プロダクトに関わる人間は、価格設定を財務の仕事だと思いがちだ——作ってから値段を付ける。Unitree はこれが逆になっている。価格は設計のアウトプットではなく、インプットである。 「いくらで売れば買ってもらえるか」を先に決め、そこからどのモーター、どの材料、どの制御方式かを逆算する。この順序が、10 年後の会社の姿を決めている。

GD01 の仕事は「見られること」

390 万元の搭乗型メカが何台売れるのか。王興興自身はその数字を誇っていない。TIME は、その設計が UFC の試合と映画『アバター』のメカに着想を得ていること、そして両拳で壁を打ち抜けることを書いている。

これは展示品だ。悪口ではない。

ハードウェア企業が、出荷台数を期待しないフラッグシップを作る。とても古いプロダクトの手だ。アウトプットは受注ではなく注目であり、ハードウェアという商売において注目は換金できる。メディアの誌面に変わり、評価額に変わり、上場申請時に投資家が付ける数字に変わり、サプライチェーン交渉での発言力に変わり、そして実際に発注する大学や工場の予算会議で「Unitree」という名前がもう一度出ることに変わる。

一台のメカの限界価値とは、5000 ドルの R1 を売りやすくすることだ。

TIME の表紙に載った時点で、この手の効率は頂点に達する。世界中が一緒になって露出を作ってくれて、広告費は一銭もかかっていない。8 年ぶりに表紙に載った中国の起業家、というラベル自体が会社の裏書きになる。

ただし展示品を業績として読んではいけない。表紙の一台と、四半期 6200 万ドルの売上を支えている機体群は、別のロットだ。

一番硬い数字は 74%

並んだ数字のうち、取り出すべきは 65 万ドルではない。74% だ。

Unitree の出荷の 74% は大学と研究機関に売られている。産業用途に入ったのは 9% だけだ。

プロダクトの言葉に訳すとこうなる。主要ユーザーはまだ、それを使って働く人ではない。それを研究する人だ。

この二種類の顧客はまるで違う。研究機関がロボットを買うのは、実験を回し、論文を出し、デモができるプラットフォームとしてだ。信頼性、稼働 1 時間あたりのコスト、連続稼働時間への要求は、工場より一桁ゆるい。工場がロボットを買うときに計算するのは、何工程を置き換えられるか、何年で元が取れるか、壊れたら誰が直すか、ラインが 1 時間止まったらいくら払うか、である。

TIME はその桁の差も数字で出している。G1 は 5 キロの積載で連続 10〜15 分、機体全体で人間の 30〜50% の効率にとどまる。

10 分から 15 分。この記事で最も耳に痛く、最も誠実な数字だ。なぜ 74% が研究室に行ったのかを説明している——Unitree が工場に売りたくないのではなく、この稼働時間と効率では、まだ工場の仕事を受けきれないのだ。

梁文鋒について書いた回で、DeepSeek が「狭く深く」やれたのは、背後に幻方が積み上げた計算資源があったからだと書いた。Unitree の価格曲線にも前提がある。売上の 74% がそれほど厳しくない顧客から来ていて、それが時間を買っている。研究機関の金は研究開発予算で、失敗に寛容、指標にも寛容だ。産業顧客の比率が逆転する日が来たとき、Unitree ははじめて本当のプロダクトの試験を受ける。

だから今後数四半期で見るべきなのは、売上が何 % 伸びたかではない。あの 9% が 20% になったかどうかだ。

「ChatGPT モーメント」に彼自身が置いた幅は 2 年から 10 年

汎用性について、TIME での王興興の言い方はこうだ。汎化能力は「世界の科学界全体にとって最大の頭痛の種」であり、身体性を持つ AI が「ChatGPT モーメント」に届くまでには「2 年から 10 年」かかる。

2 年から 10 年。ほとんど「わからない」と同義になるほど幅の広い区間だが、同業他社の多くの言い方より保守的だ——とりわけ、表紙を飾ったばかりのあのメカと並べて見ると。世界最大級の露出を得たばかりの創業者が、同じ記事の中で下限を 10 年と置いている。

汎化はデータで詰まっている。言語モデルが飛べたのは、インターネット上に数十年分のテキストが積み上がっていたからだ。ロボットが必要とするのは三次元世界での動作データである——見たことのないボトルキャップをどう回すか、知らない床でどう滑らないか、照明が変わっても同じカップをどう認識するか。この種のデータにクロールできるインターネットは存在しない。実機を一台ずつ動かして取るしかない。

これは、5500 台の出荷と 74% という研究室比率の、もう一つの読み方でもある。売られた一台一台が、見知らぬ環境で Unitree のためにデータを集めている。多く売ること自体が、学習データの仕入れ経路になっている。

王興興はもう一つ判断を示している。今後 10 年で、どの家庭にも家事や介護をこなす小型ロボットが入りうる、と。こちらに時期は付いていない。

冷や水も浴びせておく

この記事は提灯記事ではない。TIME は耳に痛い部分もきちんと書いている。そのまま書き写す価値がある。

安全性。Go1 ロボット犬にバックドアが見つかり、位置情報とカメラ映像に遠隔でアクセスできる状態だった。Unitree の機械が実演中に子どもを負傷させた映像も出回っている。暴走への王興興の答えは「そんなことは起きない。これらのロボットは厳格なハードウェア制約のもとで設計されている」——エンジニアには通る答えだが、すでに存在する映像に対する説明力は限られる。

補助金と政治。中国は 2024 年末以降、関連ファンドに 260 億ドル超を投じている。Unitree は杭州の「六小龍」の一社で、地元の 140 億ドル規模の科学技術ファンドの恩恵を受け、ヒューマノイドは工業情報化部から「破壊的イノベーション」に指定されている。米下院議員の John Moolenaar は Unitree が「潤沢な国家補助金」を受けて米国企業を脅かしていると批判し、House Guard Act は安全保障上の脅威と認定された中国製ロボットを禁止しようとしている。技術の問題ではないが、Unitree の海外市場における最大の変数だ。

帳簿。第 1 四半期の売上は 68% 増、同時に調整後純利益は 600 万ドルへ半減した。価格を下げるとは利益で払うことであり、この曲線はタダではない。60 億ドルの評価額も、まだ公開市場の検証を受けていない。

競争。Tesla の Optimus、Figure 03、Agility が同じトラックにいる。マスクの「中国の外に、まともな競合は見当たらない」という発言は Unitree への賛辞として引かれがちだが、同時に本当の競争相手は中国国内にいるということでもあり、中国でヒューマノイドを作っている会社は Unitree だけではない。

価格の対比のほうが見る価値がある。Tesla が第 3 世代 Optimus に置いた目標は 1 台あたりのコストを 2 万ドル以下に抑えることで、その前提は年産 100 万台までのスケールだ。現時点の外部推計では、製造コストは 1 台 5 万〜10 万ドルとされる。つまり Tesla が規模によってようやく届く価格に、Unitree の G1 はすでにいる——1.35 万ドル、R1 はさらに下だ。

ただしこの対比には裏面がある。Tesla の 2 万ドルは年産 100 万台の前提で、Unitree の 2025 年通年の出荷は 5500 台超にすぎない。Unitree は今日の価格で勝ち、Tesla は量産後のコスト構造に賭けている。この二つはいずれ衝突する——Optimus が本当に年産 100 万台に達したなら、Unitree が内製部品で握っている今日のコスト優位は、規模でコストを薄める相手と出会うことになる。5500 台と 100 万台のあいだには二桁の開きがあり、その開き自体が一種のコスト能力である。

モルガン・スタンレーの予測——2035 年に 1300 万台、2050 年に 10 億台、5 兆ドル市場——は、この種の記事で最も真に受けなくていい部分だ。測っているのは足元の空気であって、生産能力ではない。

締め

7 月 23 日の TIME の表紙にいた機械は、1 台 390 万元、人が乗り込んで操縦し、両拳で壁を打ち抜ける。

同じ会社が一番売っているプロダクトは 5000 ドル以下だ。ロボット犬は 6 年で 22 分の 1 になった。第 1 四半期の売上は 6200 万ドルで、利益は同時に半減した。出荷の 74% は大学と研究室へ、9% が工場へ。主力ヒューマノイドは 5 キロを積んで 10〜15 分歩く。創業者自身が身体性 AI の「ChatGPT モーメント」に置いた時間軸は 2 年から 10 年。

8 年ぶりに TIME の表紙に載った中国の起業家がやっているのは、そういう仕事だ。

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